舞台「観世音」
ストリートプレイ版
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脚本/昌克
   

台詞・演技について

シーン1
暗転

「おばあちゃ~ん! また、あのお話を聞かせて~!」

「よしよし、観音様はね。おまえが困ってる時に、必ず助けにきてくれる。たとえば、おまえが火事にあっても、観音様の力で、そこは池に変わる。おまえが洪水にあっても・・・」

シーン2
明転

夢からさめて、寝床から飛び起きる。

「うそ! そんなのは、みんなうそよ!」

大急ぎで、朝の支度をはじめる。

「私は、もう中学生。サンタクロースだって、パパの仕業だと知ってる。観音様が、困った時に助けてくれるなんて、うそ! だって・・・」

「おはよ~!」クラスメートが迎えにきた。

「かのん~ 早く~! 遅刻するよ~!」

「この名前も大嫌い! そりゃ大好きなおばあちゃんがつけてくれたんだけど・・・私は、嫌い!」

実は、名前からくるプレッシャーを感じてる。

母(声)「かのん~! 早く支度しなさ~い!」

「友達には、音楽の【カノン】からなの。って言ってある」

「とにかく今日は、修学旅行。夢のことなんて忘れて、楽しまなきゃ!」

「いってきま~す!」

「みんな~! おまたせ~!」

ナレ
学校/校庭
バスに乗り込む。主要人物紹介。
シーン3
寺/入口

目的地へ到着。バスを降りる。

男子生徒「なんだよ~。お寺かよ~」

「・・男子の言うこともわかる。私もディズニーランドに行きたかったわ。」

女子生徒「あ! お地蔵さんだ! かわいい~!」

かのん「ううん。これは馬頭観音ね。ほら、頭が坊主じゃないわ。それによく見ると、後ろにも手があるでしょ? そもそも馬頭観音は、七観音の中で唯一、怒った顔を・・・」。

クラスメートの唖然とした顔に気付く。

「え! いや! この間、テレビでやってたの!」

あわてて、その場を去る。

それを見て、微笑む一人の教師・・・

シーン4
本堂

男子生徒「へ~、これが千手観音か~。 でも、手が千本もないじゃん 笑」

女子生徒「ほんとだ~!」

みんなで、かのんを見る

かのん「こ、ここの千手観音様は、手が42本。胸の前で手を合わせてる2本を別にして、残りの40本の手がそれぞれ25本分の役割をするから、1,000になるの。」

生徒一同「へ~」

かのん「七観音の中では、一番有名かもね。。。」

女子生徒「ねえねえ、七観音って何?」

かのん「えっと、観音経には、私たちを七つの災難から救ってくれるって書いてあって、その7つの救いを象徴してるのが、七観音で。。。」

男子生徒「カッコいいじゃん! ヒーロー戦隊みたいで!」

一同「大笑い」

かのん・怒りながら「観音様は、そんなんじゃないわよ!」

それを見て、また微笑む一人の教師・・・

暗転

ホテルに到着。疲れて寝る。

友人A「ねえねえ、かのんっていつもクールでカッコいいよね?」

かのん「そう? いろんなことがバカらしいだけよ。さあ、寝るわよ」

シーン5
ホテル/
ロビー
(2日目朝)

翌朝、かのんは、早く目がさめ、ホテルのロビーに一人出てきた。
そこには、例の先生。

「おはようございます。岩本先生」(この美術の先生、ちょっと苦手なんだよね)

「おはよう。風雷神さんね」

セットに大写しで「風雷神かのん」

「は、はい」
(言ってなかったけど、この名字も、ちょっと恥ずかしい。)

先生「実は、私、高校生のとき、あなたのおばあちゃんの生徒だったの。あなたの名前をみて、すぐわかったわ。笑」

(そりゃ、そうよね。。。こんな珍しい名前)

再び、セットに大写しで「風雷神かのん」

今一度、気付く。

「え? おばあちゃんの生徒?」微笑む先生

「おばあちゃんは、どんな先生だったの?」

先生「こわかったわ~ 笑」

先生「でもね。ときどき話してくれる観音様のお話が面白かったわ」

かのん「・・・・」

先生は、かのんの顔を覗く。そのまま話を続ける。

先生「観音様は、私たちが困ってると助けてくれる。たとえば、火事に・・・」

かのん「やめて! 聞きたくない。そんな嘘っぱち!」

向こうに行こうとする、かのん。

先生「そうね。私もそう思うわ」

ふりむく、かのん。

かのん「え?」

先生「だって、そんな不思議なこと、あるもんですか。笑」

少し、いらっとするかのん

かのん「そんな言い方しなくても。。」

先生「ごめんなさいね」微笑

先生「でもね。たとえば【火】ってなんだと思う?」

かのん「火は、火だと思います」

先生「そうね。でももしかしたら、別のことを表してるとしたら?」

かのん「別のこと?」

先生「ほら、そもそも【観音様】って【音を観る】って書くでしょ?」

かのん「ほんとだ、考えてもみなかった・・・」

先生「だから、観音経も、そのまま読むんじゃなくて、見えてるものに囚われないで読んでみたらどうかしら?」

かのん「よくわからないわ・・・」

先生「例えば、【火】は【怒り】」

かのん「怒り?」

先生「そう。怒りを表すのに【火】を使った言葉って多いの。一番代表的なのは、火のような激しい怒り。」
「他にも、烈火の如くとか、メラメラと怒りが・・・とかね。」

かのん「そうですね。。。」少し考える。

かのん「じゃあ、火事っていうのは、怒られること? それでも、怒られてる時に観音様が助けにきてくれたことなんてないわ!」

先生「そうね」

他の生徒が出てくる
「かのん~。こんなところにいたの? 朝ご飯にいこ~!」

みんなと食堂へいく、かのん

シーン6
ホテル/
ロビー

食堂から出てくる。

【火】は、【怒り】
さっきの、先生との話が頭から離れない。じゃあ、洪水は? 風は?
災難は、七つあるのよ。

男子生徒「もう食べられない~」

女子生徒「ばかね~ いくらビュッフェだからって、食べ過ぎなのよ!」
女子生徒「そうよ! 欲張りすぎよ! そういうのを欲に溺れたって言うのよ」

はっと顔をあげる、かのん。

【欲に溺れる】?

【溺れる】? 【水】?

【欲張る】? 満ちる? 溢れる?

洪水って、欲張りすぎってこと?

担任「さあ、バスにのるぞ〜」

シーン7
民族博物館

もやもやしたままのかのん

「馬具」を説明する博物館スタッフ
「え~、昔は村と村の距離は、とても離れていて、荷物を運ぶのも大変でした。そこで活躍したのが【馬】ですね。」
「実は、運ばれてきたのは荷物だけじゃありません。手紙や、情報も運んできました。風の便りとか、言いますけど。これじゃ馬の便りですね~。」

【風】? 【便り】?

そう言えば【風評被害】って聞いたことがある。

【風の噂】?【風】って、嘘や間違いを運んでくるってこと?

「なんてこと? 7つのうち、3つが、言葉通りじゃないかも知れない。。。」

かのんは、手帳を広げ、7つの災難を書きだした。

火・水・風・鬼・鎖・怨・力

火は怒り
水は欲望
風は嘘・間違い

鬼は? 鬼は、乱暴者だから暴力?

怨みは? これは、そのままか。。。

う~ん。なんとなく、わかってきた気がする。。。

鎖?

男子生徒「もっと自由時間がほしいよ~」
男子生徒「そうだそうだ! これは束縛だ~!」

自由? 束縛? 【鎖】?

あとは、力?

力? もう暴力は、使ったし。。。

男子生徒「先生~! 俺たちに自由を~!」

「あ~うるさい! それは、もういいの!」

担任「うるさい! お前たちは、先生の言うことを聞いていればいいんだ!」

一同・静まり返るが、一人が歌い始める。

担任「やめろ、やめろ! これ以上騒ぐと、自由時間も取り消すぞ!」

女子生徒「あ~! 先生、それパワハラよ~!」

担任「う・・・」

生徒一同、爆笑。

【パワハラ】?もしかして、【力】ってこのこと?

どうしよう。おばあちゃんが言ってたことって、火事や洪水のことじゃなかったのかもしれない?

シーン8
ホテル/
ロビー
(3日目・最終日)

早く起きてロビーへ。岩本先生(美術教師)を捜す。かのん

「先生! ちょっと聞きたいことがあるの!」

かのんは、手帳を見ながら、昨日思いついたことを話した。

先生「実は、あなたのおばあちゃんも、同じようなことを私たちに教えてくれたわ。でも、自分で思いつくなんてすごいわ」

少し、高揚するかのん

先生「でも、あなたが怒られたとき、欲に負けたときに観音様は、助けてくれた?」

かのん「あ。。。ほんとだ・・」
「別に火事や、洪水が、怒りや欲望に変わったところで、何も変わらないわ・・」

肩を落とす

先生「観音経には、前半と後半に別れてるのは知ってる?」

かのん「うん。でも、同じようなことが書いてあるだけでしょ?」

先生「あら、そうかしら」微笑む

女子生徒「かのん~! 朝ご飯よ~! 早く~!!」

先生「いってらっしゃい」笑

後ろ髪を引かれつつ食堂へ

シーン9
ホテル/
ロビー

食堂から出てくる。

気もそぞろな、かのん。
今すぐ、観音経を見てみたい。
でも、スマホは持ってきてないし。。。

かのん「あ! お守りだ!」

おばあちゃんがくれた御守り。その中に観音経が入ってることを思い出した。

「う~ん。わからないわ。難しい漢字ばっかり。。」

ふと、おばあちゃんと一緒に読経してた頃を思い出した。読めもしないのに、一緒に座って声を上げてた。
そのとき目に飛び込んだ一節【念彼観音力】

「あ! これって、ねんぴーかんのんりき だわ!」

幼い自分が、唯一、おばあちゃんと唱えられる一節「ねんぴーかんのんりき」
思わず笑みがこぼれる。そして、それが観音経には、何箇所も出てくる。
何度も出てくる。今度は懐かしくて、涙が出そうになる。我慢。

「そう言えば【念彼観音力】って、どういう意味かしら?」
「あ! うちの担任は、古典の先生だったじゃない!

「先生! ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

担任「なんだ?」

【念彼観音力】と書いた手帳を見せる

かのん「念彼観音力って、どういう意味ですか?」

担任「ん? この観音ってのは、観音様のことか?」

かのん「はい」

担任「じゃあ、簡単だ。【彼の観音の力を念ずれば】だ」

かのん「は?」

担任「だから、【あなたが観音様の力を使えば】ってとこかな」

かのん「え? 観音様が助けてくれるって意味じゃないんですか?」

担任「え~っと。違うな。この場合は、観音様の力を使うのは、自分だな」

かのん「え? 自分が・・・」

担任「さあ~ 時間だぞ~ みんなバスにのるぞ~!」

かのん「何よ。私が観音様の力を使う? できないわよ! 人が怒られてる時に助けろって言うの? そんなこわいことできないわ!」

「だって、私は【観音様】じゃないもの!」

シーン10
土産物屋

木刀を買って、叱られる男子生徒。先生に連れられ、お店に返しにいく。
担任「木刀なんて買うなんて、おまえらは昭和の中学生か!」

土産物屋さんの奥。店番のお婆ちゃんが座ってる。

女子生徒「かのん~、私たちはこっちを見てるね~」

少しの間、一人になりたかったので、ほっとする。

お婆ちゃんが目を上げる。

婆「あんたは、かのんって言うのかい? もしかしたら、観音様から?」

かのん「ううん、ちがうの・・・」食い気味で否定。

婆ちゃんが、じっと見つめてくる。

かのん「うん。観音様が好きだったおばあちゃんがつけてくれたの」

婆「そうかい、そうかい。」

店を出ようとする、かのん。
しかし、思いとどまり振り返る。

かのん「あの・・・」

婆「観音様には、なれないかい?」

驚く、かのん

かのん「だって、私には、誰も救えない。誰も助けられないもの。」

しばらくの間。

婆は、〜大笑い「人を救うだって? 大げさなことを言うねえ」

婆「あんたは、観音経を知ってるかい?」

かのん「うん。少しは」

婆「じゃあ、話が早い。」

婆「確かに、観音経には、色んな災難から救ってくれるって書いてあるけど、そもそも、その災難って、誰のせいだい?」

かのん「誰のせいって・・・?」

婆「誰が、作ったんだい? その災難は」

かのん「えっと。火は、怒りだから・・・」

婆(おや? そこまで理解してるのかい?)表情で表現。

婆「それなら、怒られてる人がいるのは、怒ってる人がいるってことだろ?」

かのん「あ!」

婆「災難は、人間が作ってるのさ」

かのん「う、うん」

婆「あんたは、どうだい?」

かのん「え?」

婆「怒りにまかせて、人を傷つけたことはないかい?」

(お父さんなんて、大嫌い! ほっといてよ!)思い出す暴言。

かのん「・・・」

婆「私が、子供の頃、よく言われたことがある」
「自分がされていやなことは、人にはするな」

婆「私は、それが【観音様】の心だと思うがね」

納得できない、かのん

かのん「じゃあ、怒ったり、欲張ったりするなってこと?」

婆「そんなの無理じゃ」

かのん「じゃあ、どうすれば...」

婆「おたがいさまじゃ」

かのん「?」

婆「誰だって、腹もたつし、欲張りもする。それをやめろとは言わない。人は、弱い者じゃ。でも、その弱さをわかってやれば、少しは、優しくなれないかい?」

かのん「うん・・・」

婆「いくら頑張ってみても、人は誰かを傷つけてしまう。その気は無くてもじゃ」

(おとうさんのバカ!)

婆「あんたに傷つけられた誰かさんは、きっと誰かさんに救われる。」

(ママは、おとうさんを大好きなのよ)

婆「みんな、誰かに愛されておる。」
婆「みんなに観音様がついておる。みんなが観音様なのじゃ」

婆「あんただけが、観音様になる必要はないんじゃ」

婆さんの胸元で泣く、かのん。

シーン12
学校/校庭

バスから降りる。
岩本先生(美術)を見つける。

かのん「先生! 私、少し観音様のことがわかったかも知れない。」
かのん「みんな傷つけあって生きてる。みんな愛しあって生きてる。おたがいさまなのね」

驚く先生

先生「何があったのか知らないけれど、それはあなたのおばあちゃんが、私たちに言ってたことなのよ」

笑顔でうなづく、かのん

先生「じゃあ、私たちの卒業式の日に、あなたのおばあちゃんからもらった言葉を伝えるわ」

「ゆるしあう」「わかちあう」「まなびあう」「ゆずりあう」「つなぎあう」「みとめあう」「ささえあう」

かのん「え~! 覚えられないわ」

先生「大丈夫よ。七観音は、覚えてるでしょ?」

かのん「もちろんよ!」

先生「じゃあ、簡単よ」

 

暗転

聖観音様は、火の難を救う。怒りに身を委ねず「ゆるしあう」
千手観音様は、水の難を救う。欲に溺れず「わかちあう」
馬頭観音様は、風の難を救う。正しく確かに「まなびあう」
十一面観音様は、鬼の難を救う。奪えば奪われる「ゆずりあう」
不空羂索観音様は、鎖の難を救う。束縛ではなく「つなぎあう」
准胝観音様は、怨の難を救う。妬み嫉むより「みとめあう」
如意輪観音様は、力の難を救う。おたがいさまと「ささえあう」

それぞれの観音様をバックに大きく写す。

じょじょに明転

かのん「私、もっとおばあちゃんと話したかった」

先生「ここまで辿り着いたあなたをきっと誇りに思ってるわ。」

かのん「うん」

学校/校庭

女子生徒「帰ろうよ〜! かのん〜!」
女子生徒「あれ?! うちのママだ! 心配して迎えに来ちゃった! はずかしい〜!」

女子生徒/母「こんにちわ。いつも、うちの娘がお世話になってます。」

かのん「はい。こちらこそ」

女子生徒「この子は、かのん。」

女子生徒/母「いいお名前ね」

女子生徒「でしょ〜。えっとね。音楽の【カノン】から・・・」

かのん「はい。私のおばあちゃんが観音様のことを大好きで、そこから名付けてもらいました」

女子生徒「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

暗転

ピンスポット

「私は、かのん。いつも、観音様と一緒よ。もちろん、あなたもね」

    END

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